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帰省中のケロン星の本部で兄を見かけた。
兄は中庭から3階のカフェテラスでコーヒーを飲みながら
モバイルに向かうクルルのほうを見ていた。
その兄の熱のこもった視線に胸が騒いだ。

兄とクルルの関係を疑ったのはこれが初めてではない。
クルルのラボに兄からのメールが来ていることはずいぶん前から知っていた。
ケロロがふざけて、
「ガルル中尉から最近、連絡ある?」
とクルルに聞いていた。
「あるけど、それが何?」
クルルの機嫌の悪そうな返事にケロロがしまったという表情をしたことを覚えている。

3階のテラスでサンドイッチを片手に今度は動画を楽しむクルルに紫の影が近づく。
遠くて会話は聞こえないが、2人が何かを話して、そのあと黄色の隣の席に兄が座った。
そこまで黙ってみていたが、いたたまれなくなって、
反対の棟にあるカフェへ向かう。
たぶん宇宙オリンピックに出場できそうなぐらいの猛スピードでカフェへ入り、
黄色と紫の前へ立つ。
「どうしたギロロ?」
兄は平然と言うので、
「そこは俺の席だ。どけよ」
と答える。
「他に空いてる席はたくさんあるが?」
という兄のセリフを無視して、
「お前、どうしてガルルと?」
と黄色に詰め寄る。
「はあ?」
クルルは兄と自分を見比べて、
「別に俺はこいつから今度のミッションの話を聞いてただけだぜ」
そう言えばと、俺たちが本部に呼び出された理由を思い出す。
俺たちはガルル小隊のミッションを手伝うために地球から
一旦帰省していたのだった。

「じゃあクルル曹長、あとでな」
と兄が立ち去ろうとすると、
「これ払っといて」
とクルルが伝票を手渡す。
「クルル曹長は確か貸し借りはしない主義では?」
「これぐらい貸し借りに入らないぜ。いいから払っておけよ」
横柄に言うクルルを一瞥し、結局、伝票を持って兄がレジへ向かう。

「先輩、おなかすいてる?」
兄がいなくなるとクルルはまるで何事もなかったように普通の態度で俺に話しかけた。
そのいつもと変わらない口調を聞いて、
本当に兄とはミッションについて話をしていたのだけだったのかもしれないと思い、
結局、その時は自分のなかの猜疑心を封じた。

数日後、
ガルル小隊と俺たちが参加したミッションは無事に成功した。
後方支援のため司令室にいたクルルのもとへ戻ると
先に帰還していたガルルがクルルのそばにいるのが見える。
だいたいイチイチ2人の距離が近すぎるのが問題なのだとその時、気づく。
お互いの息がかかるぐらいの近さまで顔を寄せ、なにかコソコソと会話している。
怪しすぎると思ったが、なんとなく二人の間に割って入れる雰囲気ではなかった。

ふと右脚を見ると兆弾がかすった時の傷が目に入り、
怪我を治療して出直そうと通路を戻ろうとした時、眩暈が襲った。

気がつくと、プルルとクルルの話し声が聞こえる。
「クルル曹長、いくらなんでもひどいでしょう」
「わりい、反省してるって」
「ギロロくんは真面目なんだから、ちゃんと大事にしなさいよ」
「わかったから」
ドアが締まる音がして、
「先輩、起きてる?」
クルルが俺に話しかける。
「ああ」
顔を合わせるのが何だか気まずく、壁のほうを向いたまま返事をする。
「俺がアンタのアニキと浮気してるか心配?」
「…」
「ごめん。調子に乗ってた。先輩がヤキモチやいてくれてるのがうれしくて、つい…。わざと先輩の見えるところでアイツと話したりして、本当に悪かった」
「どういう意味だ? ガルルのことを本当に何とも思ってないのか?」
「俺が好きなのはアンタだけだぜ」
クルルの言葉を額面通りに信じていいか悩んで、
「ちょっと一人で考えさせてくれ」
とその場は答えた。


地球に帰る日まで、クルルから何度も謝罪の電話やメールが送られてきたが、
気持ちの整理がつかず顔を合わせることはなかった。
俺は兄に会いに行き、
「クルルのことをどう思うか?」
と単刀直入に聞いた。
「クルル曹長にそろそろ本部に戻ってこないかと誘ったんだが、断れた。
今はお前と一緒にいるのがいいらしい。年下の悪ふざけぐらいそろそろ許してやったらどうだ?」

兄の言葉を聞き、確かにと思う。
毎日来る謝罪のメールも、留守電のメッセージからも
クルルが十分反省しているのはわかったし、いいかげん許してやろうかと考える。

別れ際に兄から薔薇の花束を渡された。
「これは俺からクルルに餞別だと言って渡してくれ」と。


帰りの宇宙船の中ー。
もらった黄色と赤のバラの花を飾っていると、クルルが話しかけてきた。

「それ預かってきたのか、先輩?」

「くくく、アンタのアニキ面白いなやっぱり」

「なにが面白いんだ?」

「いや別に」

気にするなと言われても、
何が楽しいのかクルルは堪え切れない様子でご機嫌に笑い続けている。
変な奴と思いながら、バラを入れた花瓶を隅に置いたあと自分のシートに深く腰掛ける。

「あと2時間で到着だぜ…」
と言うクルルの声を聞きながら、
悩み疲れた俺はそのまま目を瞑り、短い眠りにつくことにした。


end



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まい様、遅くなったうえにすごく萌えの少ないSSですみません…。
それと紫→黄が微妙に入ってしまったのですが、大丈夫でしょうか?
お礼になっていない気もしますが、お受け取りいただけるとうれしいです。

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