秘密
東京湾へ向かう氷山型要塞の作戦が失敗に終わって数日後ー。
「頼まれていたデータを持ってきたでござる」
そう言って、影の薄い先輩がラボへ入ってきたので、
「そこおいといて」
とコンピュータに向かいながら答える。
万が一のときは、同行しない俺の代わりに
要塞のデータをピックアップしてほしいと
小隊で一番信頼できる青の先輩に頼んでおいていた。
それを持ってきたのだろう。
俺はいつでも良かったが、
律儀なドロロ先輩は、
隊長たちと基地に戻ったその日に持ってきた。
入口付近に立ち
無数のコードや、
意味不明な形をした機械が乱雑に置かれた
近くのテーブルを見て、
ここに持ってきたCD-ROMを置いたら
見つけられなくなりそうだと
戸惑っている。
「そうだ、このあと暇?」
と手を止めて、話しかける。
「特に予定はござらぬが…」
「晩酌つきわないか?データの礼にいいものみせてやるぜ」
「オンザロックもいいだろう?」
そう言って、テーブルを片づけたあと
大きな氷が浮かんだグラスを2つ並べる。
「氷をみてみろよ」
「泡が出ている。これは?」
「せっかく極地まで遊びにいったんだから、
氷山の一部を持って帰ってきたのさ。
この泡から出ているのは数千年前の地球の空気。
二人で上手い酒を飲みながら、
太古の地球に思いを馳せるのもいいだろ」
ぱちぱちと音をたてて氷が徐々に溶けていくを二人でしばらく眺める。
「地球の神秘を目にすると
この間の侵略作戦が失敗して良かった気がするでござる」
「そうだな…」
静寂のなか、氷がカランと音を立て、
一瞬、「最初からシナリオは決まっていた」
と告白しようかと迷ったが、
やはり止める。
せっかくのいい雰囲気を台無しにしたくないから、
特別な存在になったアンタにさえ、
俺は真実を隠し続ける。
そして、この場にふさわしくない話題は、
またいつか気が向いたときに話せば十分だと思いながら、
くいとグラスに残った冷たいアルコールを一気に飲み干した。
end
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アニメ274話の後日談ぽく。
超短文ですが、ブログに載せるには少し長いかなと思って…。
クルドロっぽいですが、自分的にはドロクルです。
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