「星に願いを」




俺が待つのもいい。
乾いた風と砂ぼこりの乾燥した大地に最新の高速宇宙船で降り立つ。
30年前までは小さな街があったのに、隣国の紛争のせいですっかり跡形もなくなっている。



73年前、燃料が切れて立ち寄ったこの惑星で、空に何十の星が降るのを見上げた。
「きれいだ」
と思わず呟いたら。
「普段は空を見上げる暇もないですから」
と落ち着いた声で答えた。

深夜のため周りの建物からの明りは少なく、
給油スタンドのライトだけが夜の乾燥した大地をうっすらと照らしていた。
「願い事を言ってみたら、叶えてくれるでしょうか?」
と妙にロマンティックなセリフをガルルが言うので、
「へえ、アンタに願い事なんてあるのか?」
と答えて笑う。有るわけないだろうと思う。
幾多の戦場を次々と制圧し、「星の悪夢」と恐れられているアンタなら
星に願わなくとも叶えなれない願いなどないだろう?

「好きな人がいるんです。だから…」
一瞬の間を置いて、
「その人とずっと一緒にいたいと思うんです」
と静かに告げる。

初耳だった。
ガルルにそんな相手がいるとは想像もしていなかった。
常に任務第一で浮いた噂の一つも耳に入ってこなかったし、
一人身の気軽さでいつも俺の誘いを受けているのかと思っていた。


「アンタに想われているヤツは大変だな…」
とつい本音が出てしまう。
戦場で闘うガルルは頼りになる味方というより、
まるで鬼神のような強さで、敵、味方に関係なく恐れられている。
この俺でさえ、敵に対する激しく容赦のない様に何度も背筋が凍るような気分を味わった。
今、隣にいる穏やかな雰囲気の紫のもう一方の顔を思うと
そのすべてを受け入れることになる
「想い人」の並々ならない大変さを想像して、同情する。

ガルルがほうき星が落ちるのを見ながら言う。
「でも叶わない願いです。
私をおいて、もうすぐ地球という銀河の最果ての星に行くんですよ。その人」

地球は俺が所属するケロロ小隊の遠征先だ。
まだ顔合わせもしていないメンバーを思い起こしながら、
自分以外の誰だろうと考えていると、
「クルル少佐って意外と鈍いんですね。貴方が好きだと言ったんですよ」
迷いなく断言される。

一瞬、聞き間違いかと思った。
俺たちの間に「スキ」とかそういう感情はないのだとずっと思っていた。
でも、いま、この状況で冗談を言うようなヤツじゃないということぐらい長い付き合いで知っている。
とにかく必死で、ガルルの真意を探るが、
鼓動がいつもよりずっと激しく打ち、思考がまとまらない。
「俺は本気ですよ」
ガルルの俺を見つめる視線があまりに真剣すぎてただひたすら困惑する。


数個の星が流れる夜の果てを想像しながら、突然の告白に驚くと同時に
心のどこかで歳も立場も違いすぎるこの男に段々と魅かれていた自分に気づく。

でも…。ひねくれ者の俺だから素直にコイツの告白を受け取れない。

「今夜は73年に一度だけの流星群の夜だ。
73年間、もし気持ちが変わらなければ、本気だって信じてやるぜ」

短命な一族なら一生を終えてしまうほどの年月もケロンの寿命ならほんのちょっとした時間。
地球遠征は時間がかかるというのもお互い承知しているし、
決して我慢できないほど長すぎる時間ではない。

「じゃあ73年後の今日、ここで会いましょう」
と低い声で応えるガルルを見る。
その時、たった73年で私が心変わりするとでも?
と深い紅色の瞳が語っているような気がして、
胸が強く締め付けられるような不思議な感覚に襲われながら、俺は73年後の未来の二人を想像していた。



目印などなにもなくても、
この場所を忘れるはずはなかった。
煙草に火をつけて、岩と砂しかない夕闇の乾いた大地を眺める。

ケロロ小隊に配属になった俺は遠征ばかりで、
結局、Aクラス小隊を率いていたガルルとほとんど会う機会がなかった。
多忙な毎日を過ごし、それなりに充実した日を送っていたから、
会いたいとかさみしいとか思うことはなかった。

ぼんやりと過ぎていった時間を思い出していると夜空に飛行ユニットを着けた紫の姿が現れたので、
あの日、言いたかった想いを伝える。

「73年も待たせて悪かったな、俺も…」

俺の一世一代の告白はガルルにちゃんと届いたのだろうか?
暗くて相手の表情はよく見えなかったが、
煌めく星空を背にした紫の凛とした姿が73年前と変わらず、
ただ、それだけのことが本当にうれしかった。
そして、飛行ユニットをたたみ、ガルルが軽やかに砂地に降り立つ。
73年の空白を急いで埋める必要はない。
ただ乾いた風の音しか聞こえない静寂のなか、
言葉も交わさず、二人きりで星降る空を俺たちはひたすら眺めていた。

END

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タイトルはディズニーの名曲から。すごく好きな曲です。
プロポーズの話にしようかなと思ったのですが、「付き合いの長い知り合い〜恋人へ」というイメージにしました。
  
 
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