lover



キスはお互い嫌いじゃない。
何度も舌をからめ、歯列をなぞって
息苦しくなるまで止めない。
先輩は目をぎゅっとつむって、
キスに応えている。
「先輩って色っぽいな」
「訳のわからないことをいうな。
男に色っぽいとか…」
「そうかな」
指で頬の傷をなぞる。
「この傷もハクいしさ」
「白衣?」
意味のわからない言葉を聞き返す姿もかわいい。

「白衣じゃないぜ。ハクいっていうのは美しいとか素晴らしいとかそんな意味だ。
今ではもう死語らしいけど、なんか先輩の傷ってかっこいいとか
そういう言葉じゃ表せない気がして、ハクいって響きがピッタリだと
今、思ったんだ。もともと江戸時代の盗人やテキヤが使ってた隠語だってさ」
「江戸時代ってなんだ?」
一つ話をするとまた気になった言葉を聞き返してくる。
他の連中が同じようにしたらウザいが、先輩なら問題ない。
「江戸時代は日本の昔の時代を差して言う言葉で、
たまに夏美や冬樹が時代劇とか見ているだろう。侍とか、将軍とか出てくるヤツ。
あの時代が江戸時代って言われている」
「やっぱり何でもよく知っているな」
先輩は俺の説明を聞きながら素直に感心してくれる。
この実直なほどの素直さはすごく貴重だ。

「お前のそうやって何でも知っているところも好きだ」
先輩は顔を赤くさせながら、うつむいて言った。
そういう仕草も本当にかわいい人だと思う。

まだ軍に入る前、俺がほんの子供だった頃、
周りの大人達に積み上げた知識を披露すると、
子供らしくないとか言われて嫌われたものだった。
そんな古い記憶も、アンタさえいれば下らない思い出だと笑って流せるぜ。

「俺も先輩のその素直なところが好きだぜ」
そう言って、指で傷跡をそっとなぞり、
白い犬歯がのぞく赤い人に唇を寄せる。

「クルル…」
先輩の声が艶っぽく、俺の名前を呼ぶ。

息ができないほどの口づけと、
その先の行為で、お互いの隙間をこれまで以上に埋めることができればいいと思った。



  

  END

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短めですが、ふと思いついたので書いてみました。

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