みぞれ





みぞれ混じりの冷たい1月の雨のなか飛行ユニットを飛ばしていく。
いつも私がこの星にくると雨ばかりだと考えながら、
少しでも早く愛する人に会いたいと願う。

「クルル」
ラボに入り、名前を呼ぶ。
しばらく待っても返事がないので、
メインモニターの前のいつも座っている席に近づいてみる。
椅子の陰に肩が見えて、気づく。
クルルは椅子に深くもたれて、静かに眠っている。

ふと目をやるとコンソールの上にいくつかの白い錠剤がある。
以前、気圧が変わるとアタマがひどく痛むとクルルが言っていたのを思い出す。
常用しているいくつかの薬と一緒に頭痛薬があり、
睡眠導入剤が入っているので、これが原因かと思う。


薬を元の位置に戻すと、
こちらの気配を感じたのか、クルルが目を覚ました。

「あれガルル、もう来てたんだ」
目覚めたばかりのクルルは少し掠れた声だった。
「お前が呼んだのだろう?」
「そう言えば、そうだった」
「それより大丈夫か?こんなところで寝て」
「アタマが痛くて、今日は休もうと思ったんだけどさ、
隊長がどうしてもって言うから」
「無理を」
心配そうにそう言うと、
「保護者ヅラするなよ」
といつもクルルらしい切り返し。

5分ほどキーボードに向かい、何かを入力しているのを待っていると
「じゃあ、寝るか」
サラッとクルルは言う。
いつもは休めと言っても休まないのにと考えて、
「どういう風の吹きまわしだ?」
と思わず聞くと、
「どうせ、こんな状態じゃ集中できないからさ、ガルル、一緒に寝てくれる?」
「添い寝してほしいなんて、まだまだお子様だな」

ふと、初めて会った時の尻尾のついた少佐を思い浮かべる。
いつもどこかピリピリしていた子供時代に比べれば、
今はずいぶんと大人びて達観した感じにも思える。
守るべき小さな子供だったのに、すっかり…。
複雑な感傷に浸りながら、クルルを抱き上げる。

「ベッドへ連れていこう」
思い出のなかでは、「子供あつかいするな」と怒ってる少佐が、
今は薄笑いを浮かべながら、
「落とすなよ」
と言って腕のなかに大人しく収まる。


歩きながら、さっきまで降っていた冷た過ぎる雨と灰色の空を思い出し、
こんな気象コントロールもできないような文明の惑星など、
さっさと侵略してしまえばいいのにと考える。
地球征服など、その気になればアッという間に片がつくはずだったが、
この星を気に入っているクルルは、あえて行動を起こさない。

そんな彼の事情も知っているので、
自分には今、できることは何もないのだ。

ベッドに下ろし、口づけしてから尋ねる。
「頭痛はもういいのか?」
「明日になれば、良くなる。もう慣れっこさ」
少しも弱音を吐かないところは変わらないなと思う。
平均より低い体温を温めるように、やさしく抱きしめて、滑らかな肌を感じる。
時々、力づくで連れて帰りたくなる衝動がないとは言えないけど、
今は、わずかな時間でも大事な人と共有できる、それだけで十分だと思えた。



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