クルギロ(パラレル)



<はじめに>かなりのマニアックなパラレルなので、無理だと思った方はブラウザバックでお戻り下さい。
設定:クルル デビュー間もない新人騎手
    ギロロ 調教助手(競走馬の調教をする人です)



なあ、GI、ベルちゃんで勝ったら付き合ってくれない?
新人ジョッキーのクルルは厩舎を掃除中の俺にそう話しかけた。
ベルちゃんというのはベルベットフラワー号という俺の担当する2歳の牝馬で、略してベル。
デビュー戦からクルルが手綱を取っている。新馬、オープンを連勝している厩舎期待の星。
「ちょっと待て、お前まだGIに乗れないだろう」と
聞くと、
「阪神ジュベナイルフィリーズまであと1ヵ月、7勝なんて楽勝だぜ」
確かにそうかもしれない。
しかし、新人ジョッキーがデビューした年にGI制覇なんて前例がない。
「先輩は俺みたいな新人が大事なGIでベルちゃんに乗るのが
気に入らないのか?、調教師は任せるって言ってくれたぜ」
少し怒ったように訊く。
「いや、調教師がそう言うんなら俺は言うことがない」
「じゃあ、勝ったら付き合ってくれる?」
「いや、そこでなんで付き合うとなるんだ?」
「ジョッキーはGI獲ってこそ一人前だって、前に先輩が言ってたじゃないか? 
なあ、勝ったら付き合ってくれよ」

なぜかクルルは俺のことを気に入ったようで
付き合ってくれとか、デートしてくれとか
わけのわからないことを言ってばかりいる。
そもそも男同士で付き合うとかの意味がわからないだろう。
それに俺はこの仕事を始めて約半年、慣れない仕事を日々こなすだけで精いっぱいだった。
だからクルルのしつこい誘いを毎度断っていた。

それにクルルはGI制覇を簡単に口にするが、
普通、そのチャンスはめったに巡ってこない。
ベルのGI挑戦も、今のところは賞金的にも大丈夫だが、
体調管理の難しい牝馬ゆえに無事レースを迎えられるどうかもわからないのだ。

だから簡単に約束してしまっていいか、悩んだ。
しかたなく、
「じゃあ考えておいてやる」と曖昧に返事をした。
「楽しみにしてるぜ」
そう言うと、クルルは取材があるから行ってくると厩舎を出て行った。

11月半ばにクルルは30勝を達成し、異例の新人のデビュー年のGI騎乗とマスコミに騒がれた。
レースを3日後に控えた最終追いもマスコミが多数訪れて、厩舎の面々は対応に追われていた。
調教から引き揚げてきたベルの体を拭いていると
クルルがきて、
「先輩、完璧に仕上げてくれてありがとう」
と言った。
「さっき乗ったけど、前のレース以上の完璧な状態だぜ」
「自信があるのか?」
「もちろん。先輩が仕上げてくれて、この俺が乗るんだぜ、負けるはずがない」
「そうか、楽しみだな」
「ああ」

クルルはベルの背をやさしく撫でながら言った。
「実はさ、騎手になろうと思ったきっかけがベルちゃんの母親、ホワイトフラワーの引退レースだったんだ。
だから娘のベルちゃんでGIに挑戦できるなんて、不思議な運命だなと思って」
「マイルチャンピオンシップだな。俺もそのレースははっきり覚えている」
ベルの母親、ホワイトフラワーはGI2勝の名牝で、引退レースは後続に3馬身差の圧勝だった。
牝馬とは思えない力強い走りに強いインパクトを受けた。
「先輩、約束覚えてるか?」
「ああ。GI制覇は、俺の夢でもある。もし勝ったらな」
「まかせろよ、前例がないなら、自ら記録を作ればいいさ」
クルルはとても自信家だ。それに見合う実力も持っている。
「期待している」
本心からそう思う。付き合うとか付き合わないとか抜きにして、
クルルとベルのGI挑戦が楽しみだった。

レース当日、輸送も問題なくクリアしてベルは落ち着いていた。
「やれることはやった。あとは運を天にまかせるだけだな」
地下馬道を進むクルルに話しかけると、
「戻ってきたときには、GIジョッキー様だぜ」と言って笑う。
緊張とかしないのだろうかと呆れる。
GIジョッキーになったらもっとマスコミに騒がれ、ファンも増える。
そうしたら、俺に興味を失くすかもしれない。
それもちょっと残念だなと思う。
冬晴れのなか、スタート地点を目指し颯爽と返し馬をするベルとクルルを
俺は複雑な思いで眺めた。





ゴールの瞬間は感動して声が出なかった。
ベルベットフラワーは2歳女王に輝き、
クルルはデビュー年のGI制覇という快挙を達成した。

その夜、オーナー主催による祝賀パーティーが行われ、
パーティーが終わると、クルルを車で自宅まで送ることになった。
クルルはいつもより酔っていて、
自宅のマンションに着くと、すぐベッドの上に横になった。
「悪いな、送ってもらって」
「気にするな。珍しいな、そんなに飲むなんて」
「さすがにうれしくてさ…それより先輩に謝らないと」
「なにを?」
「レースの間、一度も先輩のこと考えなかった。いつも1日24時間、先輩のことを考えているつもりだったけど、
ゲートが開いてから1分34秒と少しの間、先頭でゴールすることしか考えてなかった」
「なんだそれ?」
「桜花賞のときはちゃんと先輩のことを考えるから」
話が合わない…こいつは普段、レース中も俺のことを考えているのか?
「桜花賞は来年の4月だぞ」
「今度はクラシックをプレゼントするぜ」
今日、初GI制覇を挙げたばかりで次はクラシック…。なんて強欲な男だろう。
だが、それだけ欲深くなければ一流になれないのかもしれない。
「じゃあ、例の約束はクラシック制覇のあとでな」
「話が違うだろう」
クルルは抗議の声を挙げ、
「来年の4月までなんてとても我慢できそうにないぜ」
そう言うと、俺の腕をつかみベッドに引き倒す。
「お前が簡単にクラシックなんていうから、からかっただけだ」
俺が騎手だったころに全く手が届かなかった栄光をあっさりと手に入れた後輩。
羨ましいと同時に嫉妬も感じる。多少、意地の悪い発言もしたくなる。

クルルは話は終わりとばかりにキスをした。
恋愛経験のない俺にとってそれは初めてキスだった。
もう引き返せない気がしたが、このまま流されるのも悪くない。
クルルからの口づけを受け入れ、今日が違った意味で忘れられない一日になりそうだと思った。



  end
*****************
急にパラレルが書きたくなって、 マニアックな内容に。
あくまで、妄想の産物として受け取ってください。

戻る