emotion



「もう飽きた。別れよう」
夢のなかだとわかるのにクルルにそう言われ涙が止まらない。
きっと別れはこんな風に突然やってくるのかもしれないと思うと
なにもかもが辛くなる。
捨てないでくれと言えばいいのか、いやクルルは
例え、俺が何を言っても決めたことを覆さない。飽きた相手と同情で付き合うような奴ではない。


目が覚めると、いつものテントのなかで、となりには黄色の背中が見えた。
音も立てず、静かに眠っている。
昨日は珍しく、ラボから庭に出てきて、
「たまにはテントに泊まってもいいだろ」
と言って、狭いテントに二人で寝た。
ラボから新しい毛布を転送して、
「これ、宇宙通販で買ったんだぜ」と言って俺にかけてくれた。
「柔らかくて、温かいな」
「だろ、1枚300ユーロの毛布が2枚で450ユーロだったんだ。それで先輩に一枚プレゼントしてやろうと思って」
「そうか」
毛布はふわふわで、軽く、俺が普段使っている軍から支給された布切れのような毛布とは全然違っていた。
クルルの選ぶ品は質が良く、俺にはもったいないぐらいだった。


いつも思う。自分はクルルにいろいろな物をもらったり、銃を直してもらったりと、
一方的に何かをしてもらうばかりだ。

逆に自分がクルルのなにか役に立っているかと考えると自信がない。
そのせいで、さっきのような夢を見たんだろう。
例え夢でも、「別れよう」と言われたショックは大きかった。
ずっとそばにいられる保障はどこにもないと気づく。

「ねえ、クルル、そこにいる?」
突然、テントの外からケロロの声がした。
「いるぜ」
いつの間にか目を覚ましたクルルが答える。
「お願いがあるんだけど、クルルが作った高速飛行艇、貸してくれない? 今日本部で会議あるの忘れてて、
会議に間に合わないと、予算削られちゃうし」
「しかたないな」
クルルは起き上がると、「先輩、またな」と言って、テントを出ていった。
「隊長、船は大事に使ってくれよ。結構、開発に苦労したんだぜ」
「もちろんであります」
二人はそういう会話を交わしながら地下基地への通路がある日向家のほうへ移動して行った。


一人、テントに残されるとまた余計なことを考えてしまう。
武器の整理でもしようと思い外へ出ると、日向家上空に漆黒のボディの飛行艇が現れた。
見上げると、あっという間に上空へ消えていく。
「あのサイズの船で、本星まで帰るのか?」
通常、恒星間ワープ用の船はそれなりの質量が必要とされるはずだった。
しかし、今見上げた飛行艇はせいぜい全長30m程度の大きさで、大気圏内用の汎用機並みのサイズだった。
空を見上げていると、
「伍長さん、見ました?今の飛行艇」
とタママがやってきて話しかけてきた。
「ああ、ケロロなら、今の飛行艇で本部に出かけたようだ」
「すごいですよね。あれクルル先輩の発明でしょう。今年のケロン技術長官賞を受賞した」
「え、そうなのか」
「伍長さん、知らないんですか? 恋人の仕事ぐらい把握してるでしょう?」
「こ…恋人?、クルルが?」
「何、ごまかしてるんですか?みんな知ってますよ。二人が付き合っていることぐらい」
タママは慌てている俺に向い冷静に言った。
「陰険陰湿でもケロン技術長官賞を獲った自慢の恋人でしょう」

科学方面に疎い俺でもケロン技術長官賞が権威ある賞だということは知っている。
だが、クルルは俺に一言もそんな話をしていない。第一、いまの飛行艇もさっき初めて見た。
「今度僕にも乗せてくださいって、クルル先輩に頼んでくださいね」
考えごとをしている俺に、タママはそれだけ言って日向家へ入っていった。

俺とクルルの付き合いのが周知の事実だったということも驚きだったが、
それ以上にクルルの新しい発明品についてケロロやタママのほうが詳しいというのが悔しかった。
「俺は…」
さっきまで磨いていた武器を片付け、地下のラボを目指す。直接、会って話がしたかった。


ラボの前に着くと中から話し声が聞こえる。
「アサシン部隊に納入する飛行艇を本星にお披露目しても平気でござるか?」
「あれは試作品だから、問題ないぜ」
「それにクルル殿がアサシン部隊から依頼を受けるとは意外だったでござる」
「俺は天の邪鬼だからな、気が向いただけだ。下心はないぜ」
「下心はない…ということなら安心致した。では、ごめん」
ラボではドロロがクルルと会話をしていて、俺の気配を感じるとすぐに姿を消した。
「先輩、何の用だい?」
クルルがいつものように話しかける。
「用がないと来たらだめなのか?」という俺の問いに、
「いや、いつでも好きな時にきてくれ」
クルルの顔を見たら、言いたいことを忘れそうになる。
「さっき見た飛行艇がケロン技術長官賞を受賞したそうだな」
「ああ、その賞はもう何度もノミネートされているから、俺にとっちゃどうでもいいけど」
「そうなのか?」
「先輩だって、興味ないだろう」
そう言えば、クルルは権威ある賞をどうでもいいとか言う奴だった。
「それより、コスモネットタケダで精米機買おうか悩んでるんだ。やっぱりつきたての米は違うだろう」
最近、料理に凝っていて、ラボに様々な調理器具が並んでる。精米機の購入に悩む姿を見て
クルルの本質の近くにいるのは、やはり自分なのかもしれないと少し自信を回復する。
「残ったぬかは、ぬか床にも使えるし、買ったらどうだ」
そう言うと、
「俺がぬか味噌臭くなったら先輩が責任取ってくれる?」
と言って笑う。
「責任取って、嫁にもらってやるさ」
「嫁は先輩のほうがふさわしいぜ」
悩んでいたことを忘れ、俺たちは冗談を言い合う。
俺がクルルを必要なように、きっとクルルも俺が必要なのだと思った。
こうやって軽口をたたける関係が二人とも心地いい。

ふと、クルルと二人でぬか床に漬物をつける風景を想像する。
ぬか味噌の匂いに苦笑しながら、漬物を並べる姿はとても楽しそうだった。
今朝の悪夢はもう忘れよう。たとえクルルに俺の知らない一面があっても大丈夫だと感じる。
俺は、この穏やかな時間がずっと続けばいいと思った。





終わり

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小隊全員登場させてみました。
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