告白(後編)



次の日、目が覚めると熱はすっかりなくなり、「世話になったな」と
クルルに言ってテントに戻った。

庭には洗濯物を干している夏美がいた。
「大丈夫? 風邪で寝込んでるってボケガエルから聞いたけど」
「ああ、もう良くなった」
「なんか、クルルが看病してたんでしょ。仲悪いのかと思ってたけど
そうじゃないのね」
なぜかクルルの名前を出されるとドキドキした。

次の日、いつもの侵略会議に出席するとクルルがいなかった。
「クルルはどうした?」
とケロロに聞くと
「病欠だって」
「昨日は普通だったぞ」
「風邪だって言ってたけど、詳しく聞いてないであります」
「ちょっと見てくる」
と言うとケロロが引き留めた。
「行かないほうがいいと思うけど。吾輩が様子を見に行くっていうと、
風邪ぐらい自分で治すから来るなって言われたであります。クルルがそう言うんなら、大丈夫でしょ」

どうして、
ケロロが止めるのも聞かず、俺はラボへ向かった。
どうして、お前は…。

ラボに入るとクルルが薬品の入った試験管を振っていた。
「お前、風邪じゃないのか」
と聞くと、
「ああ、俺はコピー、本物はあっちの押し入れで寝ているぜ」
と答えた。
本物?
むかし、作ったコピーロボットなのか、これは、
コピーが指した押入れを開けると、クルルが寝ていた。
「先輩、ちょっと具合が悪いから、何か用があるんなら、またにしてくれ」
と言って押入れの戸を閉めた。勝手なやつだと思った。
「おれの風邪が移ったのか?」
と閉まった襖の向こうに聞くと
「たぶんね、すぐ治るし、気にするな。看病ならそこのコピーがやってくれるから」
と答える。
「止めるボタンはどれだ?」
「はあ?」
「コピーロボットの止めるボタンだ」
「勝手に止めるな」
と押入れの戸を開けて、俺のほうをにらむ。
俺はすでに停止のスイッチを押し、動かない人形になった
ロボットを床にそっと置いた。

「俺が診ててやる。薬も水も俺が持ってきてやる」
「…」
クルルは少し考えていたが、しかし、
「わかった、借りを返したいわけね。じゃあお言葉に甘えるとしますか」
と言うと、
床に転がっているペットボトルを指さして、
「俺、水はそのメーカーのしか飲まないから、駅の反対側のコンビニに行って
買ってきてくれる?」
俺は散らばって落ちていた数本の空のペットボトルをかたずけ、コンビニに向かった。
帰ってくると、
「あ、今日、返却日だったからそこのテーブルに置いてある本、奥東京市立図書館に返してきてくれ」
と言い、続けて「じゃあ寝るから、よろしく」と襖を閉めた。
クルルから頼まれた本を返却して戻ってくるとクルルは寝ていた。

ハードカバーの本は思った以上に重くて疲れた。
途中、「7次元における球体論」という本をペラペラと捲ってみたが、
内容はさっぱりわからなかった。
でも、自分のなかでクルルについてもっと理解したいという気持ちがあると歩きながら気づいた。
もっと近い存在になって、どんな本を普段読んでるのか、
何を嗜好するか、知りたかった。

クルルは静かな寝息をたてて眠っていた。
寝顔を見ながら、なにか一つの答えが出たような気がした。
お前のことが好きなのかもしれない。
俺とは正反対の、嫌がらせばかりのイヤな奴だったけど、
いつの間にか惹かれていた。

「好きだ」

俺は声に出して告白した。
お前のことだ、ちゃんと録画してあるのだろう。あとで見て
せいぜい驚いてくれ。
眠っているクルルの額にキスをして、そっと押入れの襖を閉めた。






  END
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クルルが本なんてアナログなものを読んでるか、
ちょっと疑問ですが…。
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