海へ



海に行くと砂浜を意味なく歩いた。
空は徐々に、夕焼けのオレンジに染まる。
キレイだな、ただ太陽からの光の角度が変わることによって
青い空が赤く変わる…レイリー散乱それだけの現象も
この赤が隣にいる自分の想い人を連想させる。
こうして二人で過ごすのも悪くない。





最初、ドライブに誘われた。
「地球の車を改造してみたんだ。試運転を兼ねてちょっと出かけるけど、一緒に行かないか?」
クルルの運転は少し乱暴だったが、上手かった。
「地球人スーツを着ても良かったけど、このくらいのサイズならちょこっと
改造すれば、俺にも運転できそうだなと思ってね」
普段目にする一般的な車より、一回り小さい黄色い車だった。

クルルは砂浜を歩きながら珍しく本部にいた頃の話をした。
本部にあるマザーコンピュータに自分が新しいシステムを入れたとき、
人工知能を組み込んだ。
コンピュータと話ができたら話が面白そうだと思って。
名前もつけたんだぜ。
パールヴァティーって名前で、
かわいいだろう。

そのパールヴァティーが、ずっと本部に帰らないから怒って
ラボに侵入してきて、
説得するに一週間もかかってしまった。機械に人工知能なんて
入れるもんじゃないね。
説得の間、会議にも出れないし、隊長には文句言われるし、
大変だったぜ。
でも間に合ってよかった。
そう言うと、クルルは水平線近くに浮かぶ船を眺めていた。
どこからともなく、海岸に地球人が集まってくる。
空は夕日が沈み、夜の暗さが一面を包む。

急に歓声が上がり、視線の先には花火が…。
船の上から次々と夜空に色鮮やかな花火が上がる。
「秋の花火も悪くないだろう」
クルルはそう言った。
確かに、風が少し冷たいが悪くはない。それに海に上がる花火もキレイだった。
花火を見ながら、クルルのさっきの話を思い出した。
ケロン軍のマザーコンピュータは宇宙一のレベルだと聞いたことがある。
ケロンの技術の全てを注いだ最高傑作だと。
前にケロロが心配してたな。
勝手に本部のコンピュータにハッキングして、バレたら厳罰ものだって。
システム開発に参加していたのなら、何かハッキングしやすいように予め用意して
いたのかもしれない。
どちらにしろ、自分のPCですら満足に使いこなせない俺には
クルルのしていた仕事は理解できないだろう。

ふと、さっきクルルがカーステレオで聞いていた曲の歌詞を思い出す。
別れを歌った曲で「解り合えないことだけを解り合う」
という歌詞が印象に残った。
俺たちの関係もそんな平行線で、不毛なものかもしれない。
それでも、もっと俺はお前を知りたい。

花火が終わると人の流れが海岸から移動していくが、
クルルは何も言わず群青色の水平線を見ていた。
「悪いな、付き合ってもらって」
「いや、楽しかった。ドライブもソーサーと違う景色が見られたし、花火もキレイだった」
海から視線を移し、俺を見る。眼鏡で隠れているが、確かに視線が合った。
「好きだ、先輩」
いつもとは違う、真剣な言葉に、時が止まる。
「…」
何か、答えなければという思いも、自分の気持ちが素直に言葉にできない。
面と向かって自分の気持ちを伝えるのがこんなにも大変だったなんて…。
「何も言わなくてもわかっているさ」
クルルは諦めたような目線でまた水平線を見た。
違う、お前は俺のことをわかったつもりになっているだけだ。
俺は誰よりお前が好きだ…。
「俺もお前が好きだ」
「せっかくのいい気分が台無しだろ」
「本気だ。この広い宇宙のすべてが敵になろうともお前が好きだ。俺だって気持ちを伝えたいと
ずっと思っていた。お前がふざけてばかりでタイミングが掴めなかっただけだ」
俺からの告白にクルルはただ驚いていた。そして、
「予測不可能なオッサンだぜ」
と困ったように笑った。




ずっとずっと前から叶わない気持ちだと思っていたのに、
こんな風に発展するとはな…。
その強いまなざしで俺を見ている。
こんな時も、異星の夜空の下でも鮮やかな赤があの初めて会った時と
同じだと思った。




  END
*****************

ドライブデートをイメージして書きました。
両想いにできてうれしいです。
戻る