休暇(前編)



「はあ、予算が通らねえ?」

「俺様がどれほど役に立ってるか知ってるだろう?」

「もちろん、でも軍事費はかさむ一方です。どの部署も一律に下げているので、
第9開発部だけ特別というのもできないそうです」

「わかった。俺が直接上と交渉する」



次の日…。
「予算通ったんですか?」
「ああ、予算を握っている中佐に秘書とデキてる写真を見せて、脅したら簡単だった。
マスコミに知られるとやっかいだろう。常に上の弱みを握っていると便利だぜ」


「あと明日から一週間、来なくていい」
「どうしてですか?」

「出張が決まったみたいだ。辞令が今日、出る。
第二惑星のアルファでの学会に行くことが決まった」
「ついて行きますよ。そのための護衛でしょう」

アルファは治安がいいから必要ないと言ったのに、
結局、うるさい護衛はついてくることになった。
急ぎでもないので、民間のシャトル航路のファーストクラスに二人で乗った。

キャビンアテンダントがドリンクを配って、
俺のところにくると飴とシャトルの模型をくれた。
ガキあつかいされた。と愚痴ると、たしかにコドモですからね。
と笑われて、一層不機嫌になる。

そもそもどうして急に学会に?
嫌がらせだよ。例の中佐の。
予算増額のためのレポートと学会の報告書を一週間以内に提出しろって。ばかじゃない。
この俺がそんなレポートごときに苦労するように見えたのかね。
普通の人は苦労するかもしれないですね。
まあ、俺は普通じゃないし。
話をしながら食事を済ませ、音楽を聴いていると
女性の悲鳴が上がる。そして一発の銃声。

「この機は俺たちが乗っ取った」
と5人の覆面をつけた男たちが乗客にむけて銃を構える。
エアジャックか…人質さえなければ、余裕なんだけど、ガルルも同じ考えらしい。
リーダー格の男がキャビンアテンダントに銃を突き付け、機長に行き先変更を伝えろと指示する。

俺は隠し持っていたモバイルを操作し、ジャミングを開始させる。
「回線がつながらない? 貸してみろ…」
そう言って銃を利き手から持ち替えた瞬間、ガルルが転送した小型銃でリーダー格の
男を撃つ。そして反対側のもう一人も。
あとはエコノミーにいる3人。

通路にシャトルの模型を転がし、一人が気をとられている隙に
二人を倒す。残りは一人だった。
「諦めたほうがいいぜ」
呆然とする犯人に告げる。
「星の悪夢の名前ぐらい知ってるだろう。相手が悪かったな」
最後の一人は銃を下ろし、投降した。

「誰か来てください」と声が上がり、見ると流れ弾の一つが運悪く乗客に当たったらしい。
弾はかすめていただけで、止血はすぐできたが、シャトルは治療のため
近くのガンマ星に降りることになった。


連絡を受けた宇宙警察が待っていて、犯人を連れて行き、
俺たちも警察の取り調べを受けた。

かったるぜ、あれこれ聞かれて、もう疲れた。
しかも急いで空港の出発ロビーに戻ったが、目的地に向かう最終便はとっくに出ていた。
しかたない。きっぱり学会はさぼることにしよう。
それにガンマ星にはたしか有名なリゾートがある。
青い空の下でたまにはのんびりするのもいい。

「学会サボって、一週間リゾートするけど、お前はどうする?」
「いいんですか?」
「報告なんて出さなくても、なんとかなるし、それにもともと休暇の予定だったろ」

いつも働きすぎるぐらい働いている。たまに休暇ぐらいもらってもバチは当たらない。
「せっかくだから、最高級ホテルのスイートにでも泊まろうぜ」
人工ビーチに人工の青い空…。くだらない学会に比べれば、ずっといい。
モバイルで目星のホテルをリサーチして、二人で空港をあとにした。





  続く
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クルルの少佐時代です。
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