すれ違う日



ある日、クルルからメールが届いた。
【急に前に作った会社で仕事をすることになった。
一か月ぐらいラボを空けるけど、会社はそんなに遠くないから、用があったらいつでも
来てくれ。ソーサーなら30分かからないし、いつでも歓迎するぜ】
という内容だった。

雲が広がる日、持っていた銃の調子が悪くクルルの会社を訪ねた。
空はどんよりとして、今にも雨が降り出しそうな天気だった。
クルルの会社は大きなビルで、その最上階に取締役であるクルルのオフィスがあった。
エレベーターで最上階へ向かい、取締役室という部屋の前までくると、
ドアは自動で開いて、
「よう、久しぶり、どうした」
とクルルが訊く。
オフィスの窓際に地球人サイズの大きめの机と椅子があり、そこにクルルは座っていた。
「ちょっと銃の調子が悪くて…、忙しいなら別に今すぐ修理してほしいとかじゃないけど」
「待ってな、もう仕事切り上げるから」
そう言うと携帯電話を取り、
「あ、おれ、今日は早退するからあとよろしく」
と一方的に言って電話を切った。

「隣のビルに部屋を借りているんだ、ここじゃあ落ち着かないし、そっち行こうぜ」
とノートパソコンを手にオフィスを出た。
クルルの借りている部屋は広く、日向家のリビングの2倍以上はあった。
家具はベージュのソファとテーブルだけで、ほかに何もなかった。
「はい先輩、お茶…ちょっと待ってな、すぐに直せるから」
ソファに座って、お茶を飲みながらクルルの作業を見ていた。
フローリングの床に銃をバラバラに分解して部品を並べ、また器用に組み合わせていく。
10分もかからず、
「ほら完成」
と言って俺に銃を返した。
「ありがとう」
礼を言うと、肩を抱かれて
「わざわざ会いに来てくれてうれしいぜ」
とキスされた。
軽い口が触れるだけのキスだった。

「好きだ、先輩」
と言って何度もキスされる。胸が痛いほど苦しくなる。
ゆっくりとソファに押し倒され、やさしい触れるだけのキスを交わした。


「先輩のすべてがほしい」
クルルはそう言い、右手でベルトを外し、腰から脚へと触れる。
すべて…と言う言葉に俺は動揺した。
「たのむ、そんなつもりで来たんじゃない、やめてくれ」
本心とは違う言葉が思わず出てしまう。
続ける勇気がなかった。
「わかった」
クルルは俺の上から避け、外して床に置いたベルトを俺に渡した。

「外は雨みたいだから、転送装置で送ってやるよ」
何もなかったように、そう言うとノートパソコンにデータを打ち込んで、
壁に黒い穴を開け、
「さあ、向こうは日向家だ。行けよ…」
こういう時、なんて言ったらいいのかわからない。
クルルの表情も読めなかった。

キスして、
俺をほしいと言ってくれたお前の気持ちを
どうして受け入れられなかったのか。

「クルル」
名前を呼んでも、次に続ける言葉が浮かばない。
しばらくの沈黙のあと、
「無理はするな、待っているから、早く帰ってこい」
と言って、クルルの部屋から立ち去った。


一瞬で見慣れた日向家の庭に着く。
木陰の猫が心配そうな顔で足元に寄ってきた。

濡れないよう猫を抱えテントのなかへ移動し、雨の音を聞いた。
クルルのことを思い出すと、辛くて泣きそうだったので、
とにかく何も考えないようひたすら努力して、眠りについた。




  END
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雨の日に思いついた話です。
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