WHITE2






その日も、この星を照らす恒星は姿を見せず、厚い雲に覆われた暗い午後だった。

クルル少佐が自分の寝ている間に基地のあらゆる機器の整備を終わらせていたことを聞いた。
「流石、本部の少佐だな」
ニルル衛生伍長は、そう言うと細かく、経緯を話してくれた。
基地の料理長がカレーが食べたいという少佐にカレーを作ったんだけど、
火力が弱くて、なかなかできず、しかたなく「俺がそのクッキングヒーターを直すから」ってことになって、
ついでに、給湯器とオーブンレンジも 直してくれないかと料理長に頼まれて、
「ギブアンドテイクが俺の身上だから、うまいカレー作れよ」
と言って調理場の機械のほとんどを修理してくれたらしい。
その後も、通信機や空調設備など壊れたままの古い機器を修繕したそうだ。

「寒くないですか、外の倉庫は空調が効いてないでしょう?」
倉庫にある雪上バイクの整備を始めた少佐に話しかけると、
「まあ、でもバイクの修理は嫌いじゃないし、たまにはいいぜ。それより体はもういいのか?」
「もちろん、手も足もおかげさまで元通りです」

「少佐に助けれたのは2度ですね」
「よく覚えてるな、ずいぶん前のことなのに」
少佐はバイクの部品を器用に外しながら、答える。
「逆にお前に助けられた回数は数えきれない」
「それが仕事ですから…」
「そのバイクの修理が終わったら私の部屋でコーヒーでもどうですか?」
「いいぜ」
後姿を見ながら、もっと話がしたかったが、少佐は目の前の作業に集中し始め、
この状態で何を言っても無駄なのがわかった。


机とベッドだけの殺風景な部屋で、とくに美味しくもないインスタントのコーヒーを飲み干しながら、
触れたい衝動を抑えられず、手を伸ばし、黄色の指に触れる。
「あなたの指が好きですよ」
「指だけか?」
「もちろん、全部、好きです」
そう言って唇を重ねる。半年前に交わした感触を思い出しながら、ゆっくりと角度を変え、求め合う。


少佐の軽い体を抱え、ベッドに移動し、体の隅々まで触れ、全身に口づけする。
徐々に快楽に溺れる体に柔らかく触れながら、全てが愛おしいと感じる。
「ガルル…」
名前を呼ばれ、硬く反応している部分への口撫をやめ、キスをする。
舌を絡ませながら、熱い下半身をすり合わせると、背中に回わされた腕が一層強く、自分を抱きしめる。
黄色の肩に舌を這わせ、秘められた箇所を中指で刺激する。
「ああ…あ…」
抑えられず漏れる声が耳に届く。
もっともっと欲望に濡れた声が聞きたいと思い、両脚を開き、奥の秘められた蕾を舌で湿らせる。
黄色い指がシーツを握りしめ、震えているのが見え、
「入れてもいいですか?」
と言い、応えも聞かずに硬くなった自分のものを緩やかに押し入れる。
指と舌で解されたそこは抵抗もなく受け入れ、半年ぶりに自分を包む温かい感触を味わう。

頂点を目指し腰を揺らしながら、この行為を快楽を追求するだけのものだと
割り切れることができれば、少しは心が楽になるはずだと思う。
しかし、どうしようのないほど、目の前の黄色の存在に囚われてしまった自分。
とめどなく降る雪になす術も立ち止まった、あの時のように
全ては自分の思惑を裏切り続けて、進んでいるような気がした。


目を覚ますと、隣に少佐の姿はなかった。
通信機の音がビービーと響き、インカムをとると、
「外を見ろ」
と少佐の声が聞こえる。
アルミ製のブラインドを上げて、外を見ると、雪の上に輝く結晶が、朝の光を反射している。
「ダイヤモンドダスト、俺も初めて見たぜ」
インカムから聞こえる少佐の声は普段より、少し興奮している。
「外へ出て来いよ、一緒に見ようぜ」
誘われて防寒用コートを羽織り、マイナス15度の外へ出る。
「ここへ来て、なんて鬱陶しい雪なんだ、天候のコントロールもできないダサい星だと
思ったけど、こういう景色を見ると、ここの気候も悪くない気がするぜ」
「そうですね」
キラキラ輝く、美しい雪景色をふたりで眺める。


「私のことが好きですか?」
「嫌いなら会いに来ないぜ」
質問の答えを逡巡なく答える潔さが羨ましい。
結局、何一つ思い通りにならなくてもしかたないと諦めに似た気分で、隣の黄色を見つめる。
そして、この半年の間に生じた迷いも葛藤も馬鹿らしくなるぐらいの幻想的な風景に包まれ、
風の音すら聞こえない白銀の世界で、ただ冷たく湿った空気を感じた。




【それから数年後…】

「中央コンピューターが敵性種族にハッキングされそうだから、トロロに応援を頼みたい?」  
第17星雲に遠征中のガルル小隊は本部から命令を受け、
規定ワープ数を超えるスピードでケロン星に帰還した。
本部のコンピュータのかなりの部分が敵の侵食で、制御不能になっていて
気象コントロールもできず、ケロンの交通や通信など様々な問題が出ていた。
トロロと中央管理室の面々が必死で汚染を食い止めているが、
焼け石に水だった。


「ガルル中尉に通信が入っています」
慌ただしく動く、通信兵にマイク付きのヘッドホンを渡され、装着する。
「外を見ろ」
挨拶もなにもなく、遠い星に遠征中の恋人はそう告げて通信を切る。
通信室には窓がなく、非常階段のほうへ出て外を見ると、
輝く雪の結晶が空中を舞っている。

「ダイヤモンドダストですね」
あとを追ってきたプルル看護長が、その結晶を掌に乗せる。
「これを見せるために、わざわざ本部にハッキングなんて、相変わらずですね。クルル曹長も」
あのとき、少佐だった彼は、事件を起こして曹長に格下げになったが、
今も中身は変わらない。

昔以上に焦がれている遠い地の恋人を思い出しながら、あの日と同じように眩しく輝く雪の結晶を眺めた。 



  
  
end
  
  
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去年のうちにUPしようと思ってできなかったので、正月早々なんですが、
書いてみました。これで、一旦は終わりかなって感じで、あとは突発的に
思いついたネタで書きたいと思います。
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